最近のEVって、どれも似た顔に見えませんか。
つるんとしたフロントに細いライト、グリルがあるのかないのか分からない顔つき。
街ですれ違っても、どこのメーカーの車か一瞬では分からないことがあります。

はじめまして、三浦航です。
自動車のデザイン会社でクレイモデラーとして12年、粘土でできた原寸大のモデルを削ってきました。
いまは独立して、クルマのデザインについて書いています。

EVが似て見えるのには、ちゃんと理由があります。
ただ、メーカーの公式発表やデザイナーの言葉を読み比べていくと、同じ条件から出発しているのに、国産と海外では「何を残して、何を変えるか」の答え方がかなり違うことに気づきます。

この記事では、航続距離や価格の話はいったん脇に置きます。
EVになってクルマの形の何が変わったのか、そのうえで国産と海外のメーカーがどんな考え方で形を決めているのかを、公式発表の言葉を手がかりに整理します。
読み終えるころには、街でEVを見かけたときに「この顔はこういう考えで作られているのか」と見えてくるはずです。

EVになって、クルマの形を決める前提が変わった

グリルの役目が小さくなった

エンジン車のフロントグリルは、もともとラジエーターに風を送るための穴です。
EVにもモーターやバッテリーを冷やす仕組みはありますが、エンジンほど大きな開口は必要ありません。

BMWは改良型i4の説明の中で、電動の駆動システムは冷却の必要が少ないため、キドニーグリルの上部を完全にふさいだと書いています。
フォルクスワーゲンのID.7は、電動のシャッターを使い、駆動系やバッテリーを冷やす必要があるときだけ開く仕組みを採用しています。

顔の真ん中に大きな穴をあけておく理由が薄れたわけです。
その結果、デザイナーは顔の作り方を一から考え直せるようになりました。
私はここが、EVデザインでいちばん大きな変化だと考えています。

床下バッテリーでプロポーションが変わった

もうひとつの変化は、横から見たときのバランスです。

日産の技術論文誌「日産技報」は、アリアのために新しく作ったEV専用の車体構造について、前輪より前にはみ出す部分(フロントオーバーハング)を減らし、前輪と後輪の間隔(ホイールベース)を伸ばすことを狙ったと説明しています。
これまで室内にあった空調装置をモーター側のスペースに移して、車内を大きく広げたことも書かれています。

エンジンがないぶん、ボンネットの下に余裕ができます。
バッテリーは床一面に敷き詰めます。
その結果、タイヤが車体の四隅に寄り、前後の張り出しが短いプロポーションになっていきます。

変わったところエンジン車EV
フロントの開口ラジエーター用に大きな穴が必要小さくてよく、必要なときだけ開く車種もある
タイヤの位置エンジンを積むぶん前が長くなりやすい四隅に寄せやすい
床車種によっては中央に出っ張りが通るバッテリーを敷いてフラットにしやすい
背の高さ低く抑えやすい床下のバッテリーのぶん高くなりがち

「どれも似て見える」のは、どのメーカーもこの同じ条件から出発しているからです。
違いが出てくるのは、そこから先です。

国産EVは、グリルの「意味」を置き換えてきた

国産メーカーの公式発表を読んでいて目につくのは、グリルを単純に消すのではなく、別の役割や意味を持たせようとする説明です。

日産アリア:グリルを「シールド」に

日産はアリアのフロントを、グリルではなく「シールド」と呼んでいます。

コンセプトカーを発表した2019年、エクゼクティブ・デザイン・ダイレクターの田井悟氏は、日産の公式インタビュー記事で「EVはエンジン冷却用のグリルを必要としませんが、このシールドには運転支援システム『プロパイロット2.0』で使用するレーダー、カメラ、センサーなどを守る意味もあります」と語っています。

面白いのは、そのシールドに日本の伝統的な組子の模様を入れていることです。
日産はこのデザインの方向性を「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」と名付け、「粋(いき)」「移ろい」「間(ま)」「傾く(かぶく)」といった言葉で説明しています。

冷却口としての役目を終えた場所に、センサーを守る機能と、日本らしさを示す模様を一緒に収めたわけです。
空いた場所を、ちゃんと意味のある場所に作り替えた例だと私は読んでいます。

レクサスRZ:グリルをボディ全体に溶かす

レクサスといえば、糸巻きのような形をした大きなスピンドルグリルです。
レクサス初のBEV専用モデルとなったRZで、レクサスはこれを「スピンドルボディ」に変えました。

トヨタの公式発表には、「スピンドルグリルも、内燃機関の冷却などの必要がないBEVの機能的な進化や更なる空力性能向上を目指して、『スピンドルボディ』という塊感のあるボディと一体となった造形としました」とあります。

グリルという「穴」で表していたブランドの形を、ボディの面そのもので表すやり方です。
クレイを削る側からすると、穴で見せるより面で見せるほうがずっと難しい仕事です。
光の当たり方ひとつで、形がくっきり浮かんだり、ぼやけて消えたりするからです。

トヨタbZ4XとHonda e

トヨタのbZ4Xも同じ流れにあります。
公式発表では「従来車のラジエータを象徴したセンター強調のテーマと異なる」フロントだと説明していて、ボンネットからヘッドライトの上へつながる「ハンマーヘッド形状」を特徴にしています。

ホンダのHonda eは少し方向が違い、丸い目をした素朴な顔です。
ホンダは「円を基調としたキャラクター」とし、「見せる要素と隠す要素を明確化」したと説明しています。
この車は2020年に、国際的なデザイン賞であるレッド・ドット・デザイン賞で最高賞の「Best of the Best」を受けました。

ここで取り上げた国産の4車種に共通するのは、エンジン車時代の記号をそのまま持ち込まず、「EVだからこの形にした」という理由を言葉にしようとしている点です。

海外EVは、ブランドの記号をどう残すかに力を注ぐ

海外メーカーの説明を読むと、話の中心が少し変わります。
ブランドの歴史やアイコンを、EVの時代にどう引き継ぐかという話がよく出てくるのです。

BMW:キドニーグリルは手放さない

BMWは、冷却口としての役目が減っても、2つ並んだキドニーグリルをやめていません。

2025年に発表された新型iX3について、BMWの公式リリースは、キドニーを縦長に配置して1960年代のセダン「ノイエ・クラッセ」を参照したこと、これまでクロームのめっきが担っていた高級感を新しいライトの光らせ方に任せたことを説明しています。
空気抵抗の小ささを示すCd値は0.24です。

日本カー・オブ・ザ・イヤーでも、BMW iXが2022-2023年のデザイン・カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれています。
授賞理由には「垂直でほぼ全面的に囲い込まれたBMWキドニー・グリルなど、従来のデザイン言語を踏まえながら」とあります。

穴としてはふさいでも、形としては残すということです。
アリアがグリルの「意味」を入れ替えたのに対して、BMWはグリルの「形」を守り続けています。

ヒョンデ:新しい記号をゼロから作る

韓国のヒョンデは、また別の道を選びました。
IONIQ 5のデザインの柱は、デジタル画像の最小単位である画素をモチーフにした「パラメトリックピクセル」です。

ライトを四角い点の集まりで描き、車幅いっぱいに広がる一枚もののボンネットでパネルの継ぎ目を減らしています。
引き継ぐ歴史がないなら、これから引き継がれる記号を作ればいい、という発想に見えます。

この方向性は世界でも評価されていて、ワールド・カー・アワーズの「World Car Design of the Year」を、2022年にIONIQ 5、2023年にIONIQ 6が続けて受賞しました。

フォルクスワーゲン:名車の記憶を借りる

フォルクスワーゲンのID.Buzzは、「ワーゲンバス」の愛称で知られたタイプ2を現代風に描き直したミニバンです。

2025-2026年の日本カー・オブ・ザ・イヤーでデザイン・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、授賞理由には「テクノロジー優先で無機質になりがちな時代において、自動車にはエモーショナルな価値が不可欠であることを改めて示した」と書かれています。
ワールド・カー・アワーズでも、2025年のWorld Car Design of the Yearに選ばれました。

ポルシェ:形を守るために中身を変える

私がいちばん感心したのは、ポルシェのタイカンです。

床下にバッテリーを積むEVは、どうしても背が高くなりがちです。
ところがポルシェには、低く流れるルーフライン「フライライン」という譲れない形があります。

ポルシェの公式マガジンによると、ポルシェは後席の足元にあたる部分だけバッテリーをくぼませる「フットガレージ」という方法で、低い車高とフライラインを両立させました。
当時スタイル部門のトップだったミヒャエル・マウアー氏は「純粋な電気自動車の構造を再定義したと言っていい」と語っています。

形を守るために、中の構造まで変えたわけです。
日産がアリアで空調装置を移して室内を広げたのと同じ「中身の工夫」でも、向かう先が正反対なのが面白いところです。

国産と海外の違いを表で整理する

ここまでの車種から見えた傾向をまとめます。

観点国産EVに多い考え方海外EVに多い考え方
グリルの扱い意味を置き換える(シールド、スピンドルボディ)形を残す(キドニー)か、新しい記号を作る(ピクセル)
らしさの出どころ日本の美意識、EVならではの機能ブランドの歴史、過去の名車
形の説明の仕方「EVだからこの形にした」という理由づけ「このブランドだからこの形を残した」という継承
中身の工夫の向け先室内の広さや使い勝手(アリア)象徴的なシルエット(タイカン)

ざっくり言えば、国産は「EVという新しい条件にどう答えるか」から考え、海外は「ブランドの顔をどう引き継ぐか」から考えている。
私はそう見ています。

ただし、これはあくまで今回取り上げた車種の公式発表から読み取れる傾向です。
2026年のWorld Car Design of the Yearは、日本のマツダが手がけたEVの「6e / EZ-6」が受賞しています。
「国産だから」「海外だから」ときれいに二分できるものではありません。

どちらが優れているという話でもありません。
国産の答え方は筋道がはっきりしていて、使う人の暮らしに寄り添いやすいと感じます。
海外の答え方には、遠くから見てもどこの車か分かる強さがあります。

違いを自分の目で確かめる方法

文章で読むより、写真を並べて見るほうが違いはよく分かります。

写真を並べて見るときのチェックポイント

  • 顔の真ん中に何があるか(穴、パネル、光、エンブレム)
  • 横から見て、タイヤが四隅にどれだけ寄っているか
  • ライトの形が、ブランドの記号として使われているか
  • その形の由来を、メーカーがどう説明しているか

Pinterestやモビリティショーで見比べる

私がよくやるのは、Pinterestで国産と海外のEVの写真を分けて保存していくことです。
最近のぞいて面白かったのが、長田雄次さんがスタイリッシュな電気自動車を集めたPinterestです。

「日本の電気自動車」と「海外の電気自動車」というボードがあり、Honda eやサクラ、アリアのほか、日産やレクサスのコンセプトカーも並んでいます。
ボードを分けずに保存したピンの中には、フォルクスワーゲンのID.4やヒョンデのIONIQ 5も入っていて、国産と海外の顔つきの違いを同じ画面で見比べられます。

実物を見たいなら、ジャパンモビリティショーもおすすめです。
東京モーターショーから名前を変えたこのイベントは、日本自動車工業会の発表によると、2025年の開催で101万人が来場し、過去最多の522の企業・団体が参加しました。
会場でコンセプトカーの顔を国産と海外で見比べると、この記事で書いた違いがもっとはっきり見えてくるはずです。

まとめ

EVは、グリルの役目が小さくなり、床下にバッテリーを敷くという同じ条件から出発しています。
だからこそ似て見えますが、そこから先の答え方にメーカーの考えが表れます。

  • 国産EVは、グリルの意味を置き換えたりボディに溶かしたりして、「EVだからこの形」を言葉にしてきた
  • 海外EVは、キドニーグリルや名車の記憶など、ブランドの記号をどう残すかに力を注いできた
  • ただし、マツダのように世界のデザイン賞を取る日本メーカーのEVもあり、きれいに二分できるものではない

次にEVとすれ違ったら、顔の真ん中と、横から見たタイヤの位置に目を向けてみてください。
そのメーカーがEVをどう考えているかが、そこに表れています。